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第11回 『PEによる事業承継案件投資の課題~投資検討時及び投資後②~』

株式会社エスネットワークス
執行役員 経営支援第1事業本部本部長兼IPO支援室長
日髙 幹夫

2017年7月26日

これまで2回にわたり事業承継案件投資の課題について言及してきた。今回は前回、指摘した投資検討時及び投資後の局面にあって顕在化する特徴や課題に対する「対応策」を挙げていくこととしたい。なお、今回挙げさせていただく対応策は弊社が関与した案件から整理したものであって個別具体的な事象になじまないものも含まれている可能性はあるし、これらの対応策以外にも適切なものも勿論存在しうることは予め御認識いただきたい。

なお、今回も前回同様、「経営資源」ごとに対応策を整理していくこととする。

1) 「ヒト(組織)」にまつわる課題の対応策

前回述べたとおり、オーナー企業はオーナーのカリスマ性に起因するマネジメントに依拠する組織運営を行ってきている。一般には後継者不在という課題を解消するためにPEに株式を譲渡するという流れが一般的である以上、オーナーのカリスマ性に依拠した体制を以後、維持することはできない(勿論、一定期間のオーナー関与は必須ではあるがあくまで引き継ぎ期間としての位置づけとなる)。このため、PEとしてはまずオーナーの代わりとなりうる経営人材の招聘か、PE自体が直接なり間接なり経営を掌握、管理できる仕組みを構築するかのどちらかの方策を検討する必要がある。この方策を検討するうえでは組織運営の現状を把握し(As-Is)、そのうえでPEとして適切と考えられる組織運営の形を想定(To‐Be)、その「ギャップ」をどのように埋めていくかを考えるといいだろう。また前回までに指摘したとおり、これらの事業承継案件は地方の有力企業が対象となることが多い。その観点からは適切な経営人材が現地において「適時に」招聘可能かどうか、あるいは本社機能を都市部に移転するかどうかを検討する、ということも重要なポイントとなる。また、PEとしては将来のEXITをどう考えるか(売却かIPOか)もこれらの対応策を考えるうえでは重要なファクターであろう。IPOを志向するうえでは上場企業としての管理体制という「仕組み」もさることながらガバナンス体制という「人的リソース」の側面にも十分配慮しなければならないことはいうまでもない。

以上を整理すると、

 1) バリューアップのための戦略実現、及びEXIT方針と整合する組織体制
  (CEO、CFO、その他のオペレーション人材とガバナンス体制)
 2) 1)を所与としたあるべき管理体制(見える化、KPI等の営業管理、資金管理等)

を「ギャップ」分析し、不足する部分を

 ① 採用(招聘)
 ② プロパー社員の育成
 ③ PEメンバーの直接関与
 ④ 外部(コンサルティング会社等)

を組み合わせ、ビジネスプラン(モデル)及びオーナーからの円滑な引き継ぎを視野にいれたうえで、「時系列で」プランニングすることが必要となる。その際、繰り返しになるが事業承継案件においてこの「ギャップ」は他の案件に比べても相当程度大きいことを自覚しておく必要があるし、「時系列で」のプランニングが重要であるということの意味には採用についてタイムラグが生じやすい環境下にあることが根底にある。

また上記①②の対応においては権限移譲やインセンティブ制度の導入等、PEの方針と整合する行動を促す設計も必要となる。特に従前のオーナー企業文化で指示待ちに慣れているプロパー社員に対しては、これらに加えて小規模のプロジェクトを設定しリーダーシップを発揮する機会を与えるなどの現場の自主性を促す育成もかねた場を作ることも併せて考慮しておくことも重要である。

さらに、前回指摘した「オーナーの質的限界」という組織的論点については上記の「ギャップ」分析の中にそれらを含んで対応策を考えることが現実的だろう。なお、前回指摘した質的限界の一部は買収後すぐの定款変更等で治癒できるものも含まれている。

なお、経営管理の仕組みについてはPMI(Post Merger Integration)の要として100~180日で一定の月次報告が可能な体制構築を試みるべきであることは他の案件と異なるところはないが、その整備には想定以上の工数がかかること、一方でこれらの日数をもってしても部分的には解消できない箇所もありえることを想定しておくべきである(特にオーナーの「勘」、すなわち暗黙知としてこれまで対応してきた部分などはその典型である)。その場合はその個別事象をプロジェクト化し、スケジュール管理できる体制にしておくことが重要だろう。

2) 「モノ」にまつわる課題の対応策

 ①本来個人用途である資産の会社保有
当該論点は投資実行前の実行前提条件としてそれまでにオーナーに整理してもらう方法がベースとなる。ただ、スピーディに実行する必要がある場合などには投資後の処分ということもあり得る。譲渡対価の中に含まれるこれらの価格をあらかじめオーナーと共有し、処分時の差額についての対応を譲渡契約に織り込んでおけば基本的には問題は生じないだろう。

 ②会社の事業用資産をオーナーが保有しているケース
①とは違い、②は事業承継案件特有であり、かつ比較的高いハードルとなることが多い。というのもこれまで税務分野における事業承継対策の主な手法の一つに資産管理会社に対象会社の株式と事業用資産を移すことで従前の対象会社の株式価値から資産管理会社の株式価値に転換を図る、というものがあるからである。株式自体は譲渡の対象となるので投資上もあまり問題とはならないが、事業用資産はPEからすれば収益の源泉となりえる重要な資産であるわけで、これらの資産が引き続きオーナーサイドに残留することは避けなければならない要請がある。こういったケースの場合は対象会社の株式と事業用資産の両方を想定した買収ストラクチャーをPEとしては講じておく必要がある。もともと、資産管理会社を活用するスキームは事業承継対策として株式価値を下げる施策の一つであり、PEに売却することとなった場合のオーナーの思考は完全に真逆になる(すなわち、高く売ってキャピタルゲインを獲得する)。その意味ではPEサイドとしては両者を別々に評価するのではなく、本来あるべき資産を保有する対象会社としての価値算定を軸とした交渉でいいと考えられるが、事業用資産の移転に係る所得税、登録免許税などの税務費用の負担の論点などもあるため、これらを総合的に勘案した交渉を想定しておく必要があるだろう。なお、「総合的に勘案」と述べたが、近年事業承継案件の投資を狙うPEによっては最終的に株式の買戻しの機会をオーナー一族に与えることを許容しているケースもあるため、これらの処理については画一的に上記のような方向性で処理することが現実的でないケースもあることに留意が必要である。
また、事業用資産とオーナーの自宅が兼用となっているケースもある。これらの処理については、本来はそれぞれの用途で使用する当事者に所有を帰属させるのが原則であるが、この辺りもオーナーの意向や、PEのEXIT方針、当該資産に担保設定している金融機関の意向などを踏まえる必要があるため、多くの手間と利害関係者の調整の労力を覚悟しておく必要があるだろう。

 ③株式分散を回避するための持株会に潜む分散リスク
①と同じく、投資実行時の売り手の一つとして持株会を位置づけ、持株会自体を清算することが原則だろう。この時点までのキャピタルゲインの実現の機会を提供するのと同時に持株会自体の資金繰り懸念からくる各種リスクからの解放を考えるとそれが一番望ましいといえる。但し、IPOなどの選択肢がある場合で持株会の資金繰りも問題ない場合は引き続き持株会の運営を認める、ということはあり得る。

3) 「カネ」にまつわる課題の対応策

 ①調達の観点
投資実行時においてオーナーとの金銭貸借関係は完全に解消しておくことは勿論、対象会社の借入における担保・保証もすべて解放されていることが前提となる買収条件であることが事業承継案件をクロージングさせるうえではマストといえる。通常のローン調達を伴う買収ストラクチャーであれば事実上のリファイナンスとなるため、上記の前提はおのずから充足する、ということになる。一方、オーナー以外に分散している少数株主からの買取りについては一定の取得が可能であれば会社法上のスクイーズアウトの手法で排除することは勿論可能ではあるが、極力、オーナーによる説得(をPE側から要請する)というプロセスを踏まえることで円滑な取得を実現できるよう手配することもその後の円滑な事業運営を維持していくうえでは重要である(現地におけるレピュテーション対策の重要性)。

 ②運用の観点
オーナー個人用途とまでいかない会社保有の「不要と思われる資産」については、投資後PE及び新経営陣の方針に沿って処分される。

 ③補足
調達・運用ともに、事業承継案件においては十分に機能するCFOが過去存在していた可能性は低いと思われるし、新経営陣として招聘されたCFOも勿論ファイナンスの能力はあったとしても調達に関する心配は特段不要、という環境になる(PEがファイナンス面のカバーを全般的に行うため)。その為、資金に関する対応能力が投資期間中に十分に社内で醸成されないリスクが生じえることになる。1)で記載したことに加えて、対象会社の永続性を確保し、かつその観点も踏まえたEXITの成功という観点からは、EXIT後まで視野にいれた社内の機能維持についても十分配慮しておくことが必要といえる。

4) その他の課題の対応策

前回、当該項目で述べたのはオーナーによる「粉飾(決算)への抵抗力の薄さ」である。勿論、現実的には投資実行までのデューディリジェンスで当該リスクの把握を行うわけであるが、そもそも論として粉飾決算が検出される予見可能性(蓋然性)をPE側が高めに設定しておくこと(いちいちおどろかない)や、検出された事項に対する前向きな受け止めと積極的な解消策の提示など、投資前後におけるオーナーとの関係を発展的に捉え、かつバリューアップに活かしていく姿勢を示し続けることが何より大事であろう。その前提に立てばやはり、粉飾というリスクを過度にクローズアップするのではなく、これまで会社を維持し、発展させてきたオーナーに対するリスペクトの念を忘れずに交渉、相談する心持、気概が大事だということになる。

あえての指摘とさせていただくがPE在籍者に比較的多い、金融機関経験者(特にホールセール営業関係)ならではのドライな見立てや投融資先との距離感、コンサルティング経験者が体験している顧客企業の「パブリック」感、とは明らかに事業承継案件は世界観、価値観が違う部分があることを改めてご自覚いただきつつ、一方でPEが事業承継案件において一定の(社会的)役割を期待されている現状を理解いただき、この「世界観、価値観の乖離」をPEサイドから「優に」乗り越えアプローチいただき、日本の社会を取り巻く事業承継という大きな課題を積極果敢に解消いただくことを切に期待し、祈りつつ3回にわたって展開してきたコラムを終えることとしたい。


***

『PEによる事業承継案件投資の課題』の3回にわたる連載コラムはこれで完了となります。

著者プロフィール 日髙 幹夫(ひだか・みきお)

株式会社エスネットワークス/執行役員 経営支援第1事業本部本部長兼IPO支援室長
第一勧業銀行(現みずほ銀行)を経て、公認会計士2次試験合格後、株式会社エスネットワークス入社。
入社後は、各種管理体制整備(各種業務フロー整備、原価計算制度構築等)、会計システム構築、新事業立上げ、M&Aにおける各種手続実行(デューデリジェンス、バリュエーション、エグゼキューション)、PMI、各種資金調達(デット/エクイティ)、IPO(株式公開)実務、経営計画策定、再生計画策定等多数の案件に関与。
当社は創業から一貫して顧客企業に対し、「常駐」という形態でコンサルテーションを実施しており、これまで社内で培ったノウハウを集約し、主にプライベート・エクイティ投資先にサービスを提供している経営支援第1事業本部を統括している。
顧客の永続性、持続的成長を図る上では、各ステークホルダーとの良好な関係構築が必須であるとの信条を持ち、業務を遂行している。
趣味はキャンプ、演劇鑑賞。
東京大学法学部卒業

◇主な著書
執筆責任者として以下
『経営目標を必ず突破できる!事業計画書のつくり方』(総合法令出版) 2012年
『間違いだらけのM&A~転ばぬ先の統合マネジメントプラン~』(金融財政事情研究会) 2013年

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