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第10回 『PEによる事業承継案件投資の課題~投資検討時及び投資後①~』

株式会社エスネットワークス
執行役員 経営支援第1事業本部本部長兼IPO支援室長
日髙 幹夫

2017年5月30日

前回は事業承継案件投資に係る「投資前」の課題を挙げて説明をさせていただいたが、今回以降は、具体的に事業承継案件投資を行う際の「投資検討時及び投資後」の特徴、ひいては課題となりえる事項を整理し、対応策をまとめてみることとしたい。

事業承継に悩むオーナー企業は大まかにいえば、①後継者選定に高いハードルがある、すなわち親族や自社内に有力とされる経営者候補が見当たらないということ(あるいはそもそも検討していないということを含む。)、次に②地場を中心として淘汰に生き残った勝ち組企業であること、すなわち株価が高く身内で株式を引き継げる資金力のある人間がいない(見当たらない)ということ、さらには③オーナーと企業の関係値が極めて密接であること、すなわちオーナーの経営感覚や財務感覚が会社運営の主要な部分を占めている結果、オーナーとの取引(報酬に限らずその他の関係会社との取引、金銭の貸借関係)やバランスシート上の資産においても用途が公私混同しているケースもあることが挙げられる。

以下では、まず「経営資源」別にその特徴及び課題を具体的に整理してみたい。なお、以下の記載には一見してオーナー企業に対する批判的なコメントと捉えられるような表現も含まれているが、日本の中小企業の大部分を占めるオーナー企業がこれまで日本経済に多大なる貢献をしてきたことは事実であり、これらの企業の永続性を確保していくことが極めて重要であるとの認識にたっており、そのうえでPEの存在は必要不可欠であること、その間に存在するハードルを双方が歩み寄って乗り越えていくことを期待しているがゆえの分析、整理であることをお断りしておく。また、今回は特徴と課題を整理するに終始した内容となっており、生産的な内容ではないが、次回にその対応策を呈示させていただくことを想定しているためその点、予めご理解いただきたい。
さらに、以下は総括的な整理であるため、個別の事例ですべてが該当するとも限らないことも併せて付記しておく。

1) 「ヒト(組織)」にまつわる特徴及び課題

善くも悪くもオーナーの「カリスマ性」に起因する特徴があるといえる。

 ①管理部門が脆弱であること
オーナーを頂点とした「文鎮型組織」であることが典型的であるが、特に効率的な運営体制を意識するあまり管理部門に関する手当てが不十分であるケースが多い。つまり、資金管理のみできれば十分との意識が広く浸透しており、財務戦略など企画し、管理できる体制が不十分であることが挙げられる。予算も十分に練られておらず、決算の進捗が適時に管理されている状態とは言い難いケースが多い。経営企画の機能はもとより存在せず、財務・経理の内部牽制は働かず承認はすべてオーナーが権限を有している状況も散見される。また、管理系のIT投資は総じて劣後される傾向にあり、現場は必要最低限の会計ソフトとエクセル作業による対応に終始していることも多い。

 ②営業組織のキーマンの不在
オーナーが営業上も絶大な影響力を有している場合は、これらの商圏を維持するに足る有効なキーマンが存在しない場合もあり得る。本来は後継者と目される人間がまずはこれらの商圏を引き継ぐべきではあるものの、商圏を引き継ぐに足る知識、ノウハウ、そしてセンスを有しているケースはまだまだ少ない(であるが故に後継者不在という問題が顕在化するということでもある)。

 ③指示待ち文化
オーナーが営業、管理のすべての権限を掌握し、コーディネイトしているため、結果として指示待ち、あるいは意見を持たない(いわない)イエスマンばかりの組織となる傾向がある。責任はあるようでない、ということになれた組織となっているケースが非常に多い。

 ④オーナーの質的限界
オーナーに過度に権限が集中し、周辺において牽制がきかず、またきかせられないイエスマンばかりの組織となってしまうと、組織運営上の法的リスクもまた多分に生じることとなる。具体的にいえば、運営上求められる会社法上の手当てがなされていないケースも多々存在する。例えば取締役会が定期的に開催されていないという基本的な法律上の瑕疵は元より、グループ会社間の株式持ち合いによって、その持分の議決権が否定され結果として歪な機関意思決定の構造になってしまっているケースもある。また、事業承継対策ではマストともいえる定款における「株券不発行」「株式の譲渡制限」、そして「相続人に対する売渡請求」などの基本的な手当てがなされておらず、株式が分散するリスクすらも手当がなされていないケースも多い。一方、これら経営上のリスクに限らず、営業上の取引契約においてもオーナーの判断によって主要な取引先と「定性的」には不利となる条件が付されている契約の存在もあれば、そもそもその取引金額自体がアームズレングスとなっていないケースもあるだろう。さらには税務に対する理解不足からくる「過度」な税務対策として過大な役員報酬などを受けているケースも多い(身内への株式承継を企図して株価を下げる対策を一時的に採用している場合などは特に多い)。これらは総括するとオーナーの経営感覚に依拠した質的限界ということができよう。

2) 「モノ」にまつわる特徴及び課題

前回も述べたがオーナーはこれまで自分の私財も投入する意識で会社経営を行ってきた。中には高度経済成長期、バブル、バブル崩壊、またそれ以降に連なるリーマンショックなど幾多の好機、危機を会社とともに乗り越えてきた感覚が強い経営者も多いだろう。その結果として会社が保有する「モノ」という資源においても以下の特徴を有する。

 ①本来個人用途である資産の会社保有
会社設備と自宅が兼用となっているような資産もあれば、明確に分離していてもオーナーに信用力がない時代に会社の信用を得て個人用資産を保有したケース、あるいはそれ以外の目的をもって会社として取得したケースもある。

 ②会社の事業用資産をオーナー個人が保有しているケース
①とは逆に個人が会社の事業用資産を保有しているケースもある。これは近年であると、事業承継対策の一環としてのオーナーの資産管理会社に会社用資産を保有させ、事実上資産管理会社の評価替えを狙うことを目的として「敢えて」保有させているケースもある(もちろん、会社とは賃貸借契約を締結する)(一般に「株特はずし」と呼ばれるケース)。

 ③株式分散を回避するための持株会に潜むリスク
株価引き下げを狙う手法として「持株会」を活用するケースがあるが、未公開企業の「(従業員)持株会」には持株会の資金繰りという問題をはらむ場合がある。すなわち従業員の入退に伴い、退職者が多くなると持株会として買取る資金が底をつき、結果として会社が持株会に資金を貸付け、株式を買取ることとなり、会社と持株会で資金の貸借が発生する場合がある(会社では貸付金として計上される)。この場合は会社法にいう「自社株式取得の潜脱」行為とみなされるリスクをはらむこととなるため、ここでも法律上のリスクを生ぜしめる場合がある。

3) 「カネ」にまつわる特徴及び課題

先述の「ヒト」「モノ」においても一部「カネ」に絡む言及を行っているが、ここではそれ以外の観点から述べてみることとしたい。

 ①調達の観点
オーナー企業であるがゆえということに尽きるがまず外部借入の観点からすると「オーナーによる担保・保証差入」という特徴が一番大きいといえる。つまり、先述のとおり、オーナーとしては私財をつぎ込む胆力を以て会社経営にあたってきたことから、総じて企業の借入においてはほぼ間違いなく私財を担保に差し入れており、個人保証もまた然りである。つまり、金融機関によってはこれらの私財を当て込んだうえで貸付を行っており、会社としてのリスク許容度をこの私財によって上昇させているケースもある。近年導入された経営者保証ガイドラインによってこれらの状況は是正されている傾向にあるが、現状においてもこれらは引き続き大きな課題となっていることは認識しておくべきだろう。
また、一部オーナーが会社に貸し付けを行っているケースもある。この場合は、金融機関からの借入限度を超えた分をリスクとしてオーナーが直接手当している実態もあることを想定しなければならない。
さらに、エクイティ面でいくと会社の外部借入においてオーナーが自社株式を担保に差し入れているケースもあるし、さらにはオーナー個人の借入の担保として会社株式を担保に差し入れているケースもある。
エクイティ面ではさらに、業績の好調な会社であればあるほど分散している少数株主の主張が大きくなる傾向があることは留意しておく必要があるだろう。PEがマジョリティを確保する際にこれらの声高な株主の対策は業績のよい会社であればあるほど慎重にすすめていく必要がある。

 ②運用の観点
先述の「モノ」においてオーナーの個人用途資産の会社保有とまではいかないものの、投資家としては不要と思われる各種資産がある。例えば過去の事業で使用していた資産、会社の営業に資するものとして購入したゴルフ会員権、余剰資金を運用するために購入した金融商品などがある。「ヒト」の部分で述べたとおりオーナーのカリスマ性に起因して実行されたこれらの資産は得てして塩漬けになっている場合も多い。その意味では投資家にとって価値をなさない資産が一定程度ありえる、ということになる。

4) その他の特徴及び課題

これまでは経営資源の観点から整理をしてみたが、それ以外にもオーナー企業ならではの特徴がある。それは「粉飾に対する抵抗感の薄さ」だろう。オーナーは会社と運命を共に行動している。業績が悪化した時代には、オーナーによってはそれなりの財務上の「お化粧」をしている場合がある。これらを経験しているオーナーには粉飾に対する抵抗感は薄い。典型的な例は主に銀行対策を意図して固定資産の償却計算を会計上、長期化または停止することで、本来は赤字であった決算を黒字にするなどの対応を行っているケースが挙げられる。投資家からすればもちろんNGのポイントではあるが前回のコラムに記載したとおり、こういった過去のレガシーがPEに対する売却の心理的ハードルを高めているともいえる。

今回は、事業承継案件において投資検討及び投資後の段階で生じる事象をまとめてみた。次回はこれらの特徴、ひいては課題となるこれらの事象を実際にどうやって対策として講じていくかを説明してみることとしたい。


***

『PEによる事業承継案件投資の課題』のコラムは計3回の連載を予定しております。

著者プロフィール 日髙 幹夫(ひだか・みきお)

株式会社エスネットワークス/執行役員 経営支援第1事業本部本部長兼IPO支援室長
第一勧業銀行(現みずほ銀行)を経て、公認会計士2次試験合格後、株式会社エスネットワークス入社。
入社後は、各種管理体制整備(各種業務フロー整備、原価計算制度構築等)、会計システム構築、新事業立上げ、M&Aにおける各種手続実行(デューデリジェンス、バリュエーション、エグゼキューション)、PMI、各種資金調達(デット/エクイティ)、IPO(株式公開)実務、経営計画策定、再生計画策定等多数の案件に関与。
当社は創業から一貫して顧客企業に対し、「常駐」という形態でコンサルテーションを実施しており、これまで社内で培ったノウハウを集約し、主にプライベート・エクイティ投資先にサービスを提供している経営支援第1事業本部を統括している。
顧客の永続性、持続的成長を図る上では、各ステークホルダーとの良好な関係構築が必須であるとの信条を持ち、業務を遂行している。
趣味はキャンプ、演劇鑑賞。
東京大学法学部卒業

◇主な著書
執筆責任者として以下
『経営目標を必ず突破できる!事業計画書のつくり方』(総合法令出版) 2012年
『間違いだらけのM&A~転ばぬ先の統合マネジメントプラン~』(金融財政事情研究会) 2013年

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