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第7回 『PE投資先のヒト課題』(その1)

ヒトラボジェイピー/HitoLab.jp
シニアフェロー 淡輪 敬三

2016年1月12日

「ヒト課題への感度」

今までに数多くのPE案件に関わらせていただいた。しかし、「ヒト」が投資リターンの最大変数、つまりボラティリティの主因であると頭では分かっていても、ヒト課題へのPEの方々の感度はおカネに比べると圧倒的に低いと言わざるを得ない。
それはなぜなのか。一つには経験の深さが関係している。要するに、ヒト課題にピンとこず最終的には投資案件がうまくいかなかった経験をどのくらい積んでいるか、その場合に失敗の真犯人がヒトだったと心底理解できたかどうかによって、「感度」は大きく異なるからである。
第二に、ヒトは分析に乗り難いからである。論理性があまり意味を持たないのもヒト課題の特徴である。つまり分析しても何が課題か、またどうすれば解決できるのかが分からないケースが大半である。カネと違ってROIが不明なのである。したがって後回しになり、結果手遅れとなるケースが多い。
要するに、ヒトは極めて専門性が高い分野なのである。

「経営者を目利きする」

ヒト課題の中でも、経営チームの競争力が最もクリティカルであることは論を俟たない。特に誰をCEOにするかでまずは成功するかどうかの90%ほどが決まってしまう。さすがにこの課題の重要性は深く理解されているので、案件の責任者のコミットメントレベルは非常に高い。現経営陣の中に競争力のあるCEO人材候補が存在するケースは極めてラッキーであり、その人材に経営チームのデザインを任せ、PE側はサポートに徹することができる。
問題は、外部からCEO人材を招聘する必要があるケースである。組織変革デザイナーとしての究極の「ヒトの目利き」が試されるのである。しかも必要とされるプロフィールをすべて満たす候補者が見つかるケースは稀である。
この時の基本スタンスで最も重要なのは、個人の「将来価値の創出力」を見抜くことである。多くの場合、過去の経歴に引っ張られる「経歴バイアス」に堕ちこむ。「見事な経歴」は確かに重要な事実であり、その中に将来価値の創出に繋がる要素が多く含まれていることも確かである。ただし、そう単純な話ではない。
業界が近い企業、企業規模も同程度の企業での経営経験と成功体験。もちろんプラスの要素であるが、その経験が機能するかどうかは、「成功」を成し遂げた様式を事実ベースで捉える。その「信念、価値観、思考特性、行動特性」の中身が現在の事業環境で競争力があるか、またその特性が新たなチャレンジへどのように生かせるかどうかをフラットに問うのである。評判や好き嫌いのバイアスを完全に取り除けるか、大きなチャレンジである。
例えば、リストラが課題であれば、業種業界が違っても、組織スケールが同程度の経験が生きる。新たな成長ビジョンが必要なフェーズであれば、その業界のインサイダーで業界トップクラスのグローバルリーダーとの密接なネットワークが必須である。変革が鍵ならば、組織変革リーダーシップの経験と質を見ることになる。
要するに、個の持つ力量・特性と投資先企業のリーダーに必要なコンピテンシーのマッチングを判断するのである。しかもいかに深く洞察してもきりがない世界である。豊かな経験を持つものの「直観」が効く世界でもある。とことん謙虚に観察し考え抜く必要がある。

「ヒトの洞察」に対する例で一つのベンチマークを紹介したい。世界的なクライマーである小西浩文氏から伺った、彼が登山パートナーを選ぶときの方法論である。パートナー候補者との面談には最低3時間かける。面談の日の朝には自宅の庭で日本刀の真剣を振る。心に乱れがないときには空気を切り裂く良い音がする。そうでないときにはその音が出ない。その時には面談を延期する。
心の乱れがない状況で、過去の登山の経験を根ほり葉ほり聞く。話の中身よりももっと集中して観察するのは話し手の表情とその筋肉の細かな動きである。もし一度でも仲間を裏切ったことがある人は「裏切った」時の表情がどこかで出る。脳が覚えているからである。100%信頼できる人物かどうかを一瞬の表情の変化から徹底的に読み取る。一点でも不安があればパートナーには選ばない。彼が狙う8000メートル超えの無酸素登山は文字通り「命がけ」だからである。
「ヒトの目利き」はまさに真剣勝負なのである。

「経営チームのデザイン」

CEOが最も重要な経営メンバーであることは確かだが、トップを支える経営チームが高いレベルで機能するかどうかで経営競争力の持続性、安定性が決まる。ビジョン、基本となる価値観、事業構造の変革の方向を定めるのはCEOの役割である。そのビジョンに従い現場を動かし成果に繋げるのがCOO,さらに数値結果から検証しビジョンや実行体制の修正を提案するのがCFOの役割である。
この経営3機能が相互に信頼しつつも牽制しあい高めあう「執行チーム」になっているかどうかが経営品質を決める。この3者の力量がバランスしている必要がある。どこかに弱点があると、経営のPDCAサイクルが回らず、環境変化への対応に遅れ、企業としての経営能力が向上しない。
さらに、この3機能に加え、重要なのが独立社外役員の存在である。社外役員に求められる基本条件は、経営者としての力量である。CEOと対等な力量がなければ、影響力を行使できず「お飾り」になりかねない。経営品質を高める上で鍵となる機能である。
発揮すべき役割は、高品質の「多様性」「専門性」を経営チームに提供することである。執行チームは業界にどっぷりつかり、日々の課題解決に邁進することになる。その結果、思考特性が業界独自の狭い世界に閉じこもる危険性が高い。世の中、世界の基本的な変化への感度が低下する。執行チーム全員の脳の働くパターンが同質化しやすい。社内だけに通ずる言語で考えるようになると新しい発想が生まれず、経営リスクが高まる。
ただし、多様性が裏目に出れば、意見の対立になり、意思決定のスピードが遅くなる恐れがある。つまり多様性は、好循環の化学反応が起これば、相互に刺激しあい学びあい成長するが、逆の化学反応が起これば経営チームが崩壊しかねない。
どのような「化学反応」がおきるかを事前に想定することは無理がある。個々のメンバーの力量が高いほど何が起きるかわからない。したがって、この観点で重要になるのは、ボードとして機能しているかどうかを検証し修正する仕組みである。
多くのケースはコミュニケーション不足であったり、役割認識のずれであったり、修正可能なものが多い。それでも基本的に「相性」に難がある場合は問題が露呈する前に、メンバー入れ替えを行うことが望ましい。

以上、経営チームに焦点を当ててヒト課題を概観した。この後で問題になるのは、人事の仕組みや組織体制の変革デザインに関する課題である。
機会があれば、別途取り上げてみたい。

皆様のご健闘を期待して、筆をおくこととしたい。
明るく輝く新年を迎えられますように。


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『PE投資先のヒト課題』のコラムは計3回の連載を予定しております。

著者プロフィール 淡輪 敬三(たんなわ・けいぞう)

ヒトラボジェイピー/HitoLab.jp シニアフェロー
日本鋼管株式会社(NKK、現JFE)、マッキンゼーアンドカンパニー、ワトソンワイアット/タワーズワトソン(現ウイリス・タワーズワトソン)を経て現職。
マッキンゼーでは、パートナーとして内外の大企業に対して、長期ビジョンの構築、経営戦略の立案、全社組織の設計、組織能力開発など、9年間数多くのプロジェクトをリード。ワトソンワイアット及びタワーズワトソンでは、19年近く、伝統的な日本企業の人材マネジメントをグローバル経営に進化させる支援を行う。また自社の合併に伴う経営システム、組織文化の統合を、アジアパシフィック部門の経営メンバーとして、また日本法人の代表として指揮、統括。2016年1月の立上げから参画したヒトラボジェイピーでは、経営者層のアセスメント及びコーチング、指名委員会のデザインと運用サポートなど、日本企業の経営人材強化とガバナンス改革に注力している。
現在、(株)キトー、曙ブレーキ工業(株)、インヴァスト証券(株)、(株)ZMPにて独立社外役員、立命館大学ビジネススクール客員教授、公益財団法人WWFジャパン代表理事副会長、国際キワニス日本地区事務総長、日本ビジネスモデル学会運営委員、さらに数社のスタートアップ企業の経営支援など多方面で活動。
休日には、テニス、ゴルフ、スキー、トレーニングジムやジョギングなど、スポーツ全般を楽しむ。
東京大学工学部航空学科宇宙工学卒業
東京大学工学系大学院修士課程修了
スタンフォード大学大学院修士課程修了

◇主な著書
『ビジネスマン プロ化宣言』(かんき出版) 2002年
『釣りバカ日誌「ハマちゃん流」』(共著/日経新聞社) 2004年

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