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第5回 『PEファンドとコーポレート・ガバナンス』
~社外取締役の観点から~

日本における社外取締役の実際

 次に、日本における現在の社外取締役の選任状況を見てみます。2014年7月に東京証券取引所が東証一部上場企業の内、社外取締役選任企業が74%に達したとの発表がありました。10年前が30%であったことを考えると、社外取締役の選任は企業間に急速に浸透しているものと思います。また、Spencer Stuart社の調査からも、2013年時点で日経225社では社外取締役選任企業は90%に達し、多くの企業にて社外取締役が選任された状況が確認できます。一方で、社外取締役の選任企業は増えているものの、各企業の取締役会における社外取締役比率に関しては米国85%、英国56%等に対し、日本は20%程度(日経225企業、Spencer Stuart社調査より)に留まっており、日本企業の取締役会における社外取締役の割合は依然極めて少ないと言えます。更に、上記のような数字面だけでなく、社外取締役の選任プロセスにおいても日本は欧米と比較して遅れていると考えられます。すなわち、日本企業では欧米の企業とは異なり、委員会設置会社に移行し指名委員会を設けている企業は極めて少なく(上記のSpencer Stuart社の調査では日経225社のわずか6%)、社外取締役が半数以上を占める指名委員会ではなく、取締役会にて社外取締役を選任しているため、社外取締役の選任プロセスから経営者を排除できておらず、その結果として経営者にとって組みし易い人材が社外取締役に選任される傾向があるようです。法制面において欧米のような社外取締役を取り入れるインセンティブ設計が未だ乏しい上に、収益力を求めるプレッシャーが少ない市場環境下では、経営者がわざわざ自分に対して厳しいことをいう社外取締役を選任するインセンティブも低いのかも知れません。アベノミクスにおいて、コーポレート・ガバナンスの強化、ひいては社外取締役の存在が成長戦略に重要であることが明確化されたことで、日本企業の考え方そのものに大きな変化がもたらされることを期待しています。

PEファンドによる投資後の取締役会

投資先企業の企業価値の向上が利益の源泉であるPEファンドからすれば、自らが社外取締役となってガバナンスに関与することは必要不可欠であり、その実践により企業価値向上に対する有効性を実感しています。
「コード」内にある、事業計画に対する高いコミットメントの維持と、そのための経営陣・従業員へのインセンティブ設計は、PEファンドにとっては欠かせないファクターです。また、コアとなる企業理念や企業文化を維持しつつ、緊張感のあるガバナンスを確保していくことはとても難しいことですが、だからこそ様々な目標を達成した時は、会社、PEファンド双方にとって何事にも替えがたい喜びがあるものです。

PEファンド投資後、ガバナンスはどう変わるのか、取締役会は投資前と比べて何が変わるのか。当たり前の事が多いかも知れませんが、筆者の社外取締役としての実体験を踏まえながらその意義も含めて述べてみたいと思います。

まず、PEファンドによる投資は凡そ、以下の順番で進みます。

投資対象先企業の選定→基本合意→デュー・デリジェンス→最終的な条件合意→株式譲渡契約書の締結→資金決済(クロージング)→バリューアップ(投資期間3~5年)→Exit(売却)

PEファンドの投資は通常、経営権を取得するバイアウトという形態をとりますが、その場合、上記のクロージング日においてPEファンドから社外取締役を派遣することになります。即ち、PEファンドによる投資実行により、スポンサーが変わるのと同時に取締役会の構成もがらっと変わることになります。このように、PEファンドの投資実行後に社外取締役が選任されることこそ、PEファンドの機能としてガバナンス強化が挙げられる所以となります(当然ながら、このような体制は、投資先企業との事前の合意が為されていることが前提です。)。

PEファンドが社外取締役として取締役会に参加するとどういう変化が起こるのか、については、会社によって変化度合いや内容も異なりますが、一般的には以下の点が挙げられます。

取締役会の視点が一段高くなる

取締役会は、重要事項の決定や代表取締役の選定などの権限が与えられた、会社の最も重要な機関と考えられております。しかしながら、ややもすれば各取締役が過度に担当領域に拘り過ぎて、個別の最適解を求めるあまり、会社全体としての最適解になっていないケースが散見されます。こうしたケースでは、PEファンドから派遣される社外取締役が取締役会に参画することで取締役会の視点を上げ、本来の経営執行機関としての役割を取り戻すことが可能となります。例えば、ある製造業において、PEファンド投資後にKPI(重要な経営指標、Key Performance Indicator)を新たに設定し、業績の管理及びその後の重要施策決定に生かすことで、それまでは各取締役が自身の担当領域(営業、財務、製造等)に執着し、悪く言えばタコツボ化していた議論が分野横断的な観点から議論できる土壌を形成することになったことがあります。

議案の幅が広くなる、議論が深くなる

取締役会にて決議すべき事項は取締役会規程によって定められているわけですが、「その他重要な事項」のようなバスケット条項があるのが一般的です。プロパー取締役としてみれば取締役会決議事項でないものをわざわざ取締役会に上程するインセンティブはありませんが、社外の取締役から「取締役会で議論すべきではないか」との声があげることで、幅広い議案が取締役会の場で議論され、意思決定のクオリティ向上に資することになります。例えば自社製品の値上げ状況について取締役会で共有するようにした事案では、工程表を作成の上、何が計画通り進んでおり、何が計画から遅れているのか見える化し、毎回の取締役会のアジェンダとすることで、取締役会の管理監督機能が強化され、打つべく手を迅速に打てるようになる効果があります。

更に、特にPEファンドから派遣される社外取締役について言えるかと思いますが、当然ながら対象会社のビジネスの経験はプロパーの取締役と比べて少ないことがほとんどです。一方でPEファンドから派遣される取締役のほうが金融やその他専門領域での知識・経験が豊富であることが多いというのもまた事実であります。取締役会を全体としてみれば、より幅広い知識や経験を持ったチームで経営に関する事項を議論することになり、色々な角度から議案を検討することが可能となります。また、プロパー役員としてはなじみの深い分野でも、社外取締役は門外漢のケースも多く、分かりやすい資料の作成に配慮する結果、取締役会資料の質が大きく向上し、説明責任の遂行能力が飛躍的に向上することも大きな成果と考えられます。

しがらみを断ち切った論理的な意思決定ができる

上述のように幅広い事案について本質的な議論ができることの結果として、企業価値というぶれない軸によって、複数の選択肢のある経営事項を合理的に判断できることになると思います。プロパー役員のみではなかかなか決断できない、取引先等のしがらみや創業者のしがらみを断ち切った合理的な意思決定をすることで企業価値向上につなげることが可能です。例えば創業者が始めた、もはや企業価値向上への貢献という意味では不合理な不採算事業についても、PEファンドの関与によりようやく撤退の決断をし、選択と集中を加速させることで、その後急成長した事例もあります。

その他

上述のような変化の過程においては、皆が企業価値の向上を真剣に考えるようになるからこそ、取締役会の雰囲気がより緊張感の高いものになり、時にはつかみ合いの様相を呈することもあるほど活発に議論がなされるようになります。企業価値向上という目的や、そのコミットメント度合が一枚岩でない場合、PEファンドが敢えて悪役、憎まれ役として機能することもあります。ただし、憎まれながらも一貫した方針に徹し続けることにより、ガバナンスの考え方やガバナンスの礎が会社に根付き、PEファンドが株式を手放した後も引き続き成長し続けている事例はたくさんあります。そのような会社から、後々になって感謝の言葉を頂く時こそ、PEファンドに携わる者が喜びを感じる瞬間であり、この仕事のやりがいのひとつなのです。

著者プロフィール 漆谷 淳(うるしたに あつし)

ポラリス・キャピタル・グループ株式会社 チーフIRオフィサー 
株式会社中国銀行にて個人・法人渉外等の営業店業務を経験した後、国際部、資金証券部にて国内外有価証券のリスク管理業務、オルタナティブ投資業務に従事。2004年12月KFi株式会社に入社。マネージャーとして、金融機関向けリスク管理、内部監査、規制対応(バーゼル対応を含む)、事業法人等向け内部統制、コンプライアンス対応等のアドバイザリー業務に従事。2007年11月エー・アイ・キャピタル株式会社参画。ディレクターとして、国内外のプライベート・エクイティ・ファンドを投資対象としたファンド・オブ・ファンズの運営業務、投資一任業務、アドバイザリー業務を牽引。2014年2月ポラリス参画。
京都大学法学部卒業

著者プロフィール 袴田 隆嗣(はかまだ たかし)

ポラリス・キャピタル・グループ株式会社 ヴァイス・プレジデント
Ernst & Young Transaction Advisory Servicesにて、投資ファンドの投資検討先企業のデューデリジェンスや外資系メーカーのアウトイン案件におけるM&A後の統合サポートに複数関与。2010年9月ポラリス参画。
東京大学教養学部卒業
東京大学公共政策大学院法政策修士課程修了

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