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第5回 『PEファンドとコーポレート・ガバナンス』
~社外取締役の観点から~

ポラリス・キャピタル・グループ株式会社
チーフIRオフィサー 漆谷 淳、ヴァイスプレジデント 袴田 隆嗣

2015年3月23日

はじめに

最近、新聞や経済紙を読んでいると社外取締役に関する議論を目にしない日はありません。とりわけ、2015年 5月に施行される改正会社法では、社外取締役の設置義務化は見送られるものの、社外取締役の設置のない上場会社(大会社)は会社法改正後の定時株主総会から「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明する必要が生じることになります(いわゆる「comply or explain(=実施するか、実施しない理由を説明するか)」原則)。また、昨年の12月にリリースされた東京証券取引所と金融庁の提言「コーポーレートガバナンス・コードの基本的な考え方(案)(以下、「コード」と表記します。)」でも社外取締役についてcomply or explain原則が取られております。欧米に遅ればせながら、日本におけるコーポレート・ガバナンスの考え方にも大きな変化がもたらされることでしょう。

以前の本コラムでは、「プライベート・エクイティ(PE)という言葉をはじめて聞く人のために」の中で、「ガバナンスの強化」がPEの主要な役割のひとつとして挙げられていました。PEファンドはそもそも、コーポレート・ガバナンスを語るうえで欠かせない、「独立社外取締役(特に独立性の高い社外取締役)」という役割で今までも投資先企業をサポートしてきたため、昨今の盛り上がりはPEファンドから見れば何ら目新しいものではありません。むしろ、独立社外取締役の活用が企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に大きく貢献する、ということを、実績をもって証明していく責を担っているものと捉えています。

当然ながら、前述の「コード」にもあるように、独立社外取締役を置けば会社の成長が約束される、というものではありません。その設置の趣旨に照らし、社外取締役を十分に活用することで、成長に向けた活動が一層促される、ということだと思います。
今回は、社外取締役に関する昨今の流れや論点を整理しつつ、PEファンドが社外取締役を派遣することで企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にどのような形で貢献し得るのか、について、私見を述べてみたいと思います。

コーポレート・ガバナンスとは

そもそも、「コーポレート・ガバナンス」という言葉には、会社側から見るとネガティブな印象がないでしょうか。「監視」、「管理」、「権力」のような、その「行動」に焦点があてられたニュアンスに響きますが、重要なのはその「目的」に目を向けて理解することだと思います。「コード」によると、「会社におけるリスクの回避・抑制や不祥事の防止といった側面を過度に強調するのではなく、むしろ健全な企業家精神の発揮を促し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図る」体制を構築することがコーポレート・ガバナンスの目的とされています。更に、「会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出」は、「従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識する必要がある」と述べることで、ともすれば株主利益の追求のみに目が行きかねない面を牽制しています。

コーポレート・ガバナンスの主役たる取締役会は、これらの点を踏まえて経営を適切に監督し、企業価値向上の実効性を確保することにその役割・責務があります。更に、この実効性を確保するにあたっては、より客観的、独立的な立場で執行状況を監視、管理することができる者の存在が重要である、ということで、社外取締役の存在が注目されているわけです。

社外取締役の選任により企業価値は向上するのか

では、実際に社外取締役の選任によって、本当に企業価値は向上するのでしょうか。
社外取締役に期待される効果は大きく分けると二つあります。一つ目は、経営者の不正を防ぐこと、もう一つは、上述のように、より積極的な意味で企業価値向上につながることです。
前者の観点では、とある日本の上場企業における不正において、全取締役14人の内、社外取締役が一人もいなかったこともありました。また海外でも、英国における1992年キャドバリー報告書(巨額の不正経理事件に端を発し、少なくとも3人は社外役員とすることを義務付けられた)や、米国における2002年成立のいわゆるSOX法(エンロン及びワールドコムの事件の流れを受け、主要証券取引所は過半数以上を社外取締役とすることを義務付けた)を思い出すことで理解しやすいと思いますが、直感的にも客観的な立場にある社外取締役の存在は一定の不正防止の効果があることに異論はないと思います。大きなダウンサイドリスクを未然に防ぐという観点からは、社外取締役は企業価値向上に一定の役割を果たしていると考えられます。
一方、後者については、内外で極めて多くの研究が行われておりますが、それらの結果を大胆に要約すれば社外取締役を増やすことが企業価値向上につながるか否かは、一概には言えないようです。社外取締役がいても、その人自体の適性や専門性、関与度合まで踏み込んだ研究には至っていない面もあると思われますが、事業の複雑性が低く、社外取締役としても経営判断や事業のモニタリングをするのに十分な情報を獲得するのが容易な企業や、エージェンシー問題(経営者と株主等との利害が一致しない問題)が深刻な企業においては社外取締役の選任と企業価値の向上に一定の相関性が認められているようです。
いずれにせよ、コーポレート・ガバナンスの強化は、アベノミクスの第3の矢である「日本再興戦略」の一角でもあり、日本の成長戦略を担うものとして捉えられていることは間違いありません。

著者プロフィール 漆谷 淳(うるしたに あつし)

ポラリス・キャピタル・グループ株式会社 チーフIRオフィサー 
株式会社中国銀行にて個人・法人渉外等の営業店業務を経験した後、国際部、資金証券部にて国内外有価証券のリスク管理業務、オルタナティブ投資業務に従事。2004年12月KFi株式会社に入社。マネージャーとして、金融機関向けリスク管理、内部監査、規制対応(バーゼル対応を含む)、事業法人等向け内部統制、コンプライアンス対応等のアドバイザリー業務に従事。2007年11月エー・アイ・キャピタル株式会社参画。ディレクターとして、国内外のプライベート・エクイティ・ファンドを投資対象としたファンド・オブ・ファンズの運営業務、投資一任業務、アドバイザリー業務を牽引。2014年2月ポラリス参画。
京都大学法学部卒業

著者プロフィール 袴田 隆嗣(はかまだ たかし)

ポラリス・キャピタル・グループ株式会社 ヴァイス・プレジデント
Ernst & Young Transaction Advisory Servicesにて、投資ファンドの投資検討先企業のデューデリジェンスや外資系メーカーのアウトイン案件におけるM&A後の統合サポートに複数関与。2010年9月ポラリス参画。
東京大学教養学部卒業
東京大学公共政策大学院法政策修士課程修了

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