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第2回 『PEファンドで働く人々』

PEファンドで働く人に求められる能力

PEファンドで働こうとすれば、当然ながら何らかのファームに入らなければいけないが、どのような能力を有した志望者が採用されやすいのだろうか。大手PEファンドの代表の方々にお尋ねしたところ、異口同音に同じ答えが返ってきた。ファンドで働くのに必要な能力は、次の三つに大分されるといえるだろう。

ハードスキル

会社に付加価値を提供するための技術的な能力は当然に必要とされる。そのため、PEで働くひとの多くは、投資銀行や戦略コンサルティングファームのどちらかの出身者で占められている。他には、法律事務所や総合商社、銀行出身者などもいる。

投資の実行前において特に必要とされるのがファイナンスの知識だ。それは財務モデルの作成、投資実行時のファイナンスの建付け、スキーム設計など多岐に及ぶ。また事業を分析し、投資後にその強みをどのように活かしていくか、企業の経営管理をどのように強化していくかといった点を把握するにおいては、経営コンサルティングファームで通常得られるような知識が必要となる。

ただし、PEファンドで働く人々にとって、ハードスキルは、どちらかといえば前提条件という側面が強い。元々の仕事を通じていくつかのスキルを身につけている人が、PEファンドに入って案件をこなしていくうちに、バランスよく必要な技術を揃えていくことが多い。もともと知的素養が高い人が多いため、言語化がされていて、決意さえすれば学ぶことが容易であるハードスキルそのものが、ファンドで働く人々の成長上大きな問題となることはさほど多くない。

コミュニケーション能力

一方で、あまり外部では知られていないものの非常に重視されるのが、コミュニケーション能力だ。ここでいうコミュニケーション能力は、人の信用を得る力、人の心を動かす力のことだ。弁舌さわやかにものを語る能力や、言葉巧みに議論を進める能力ではない。

いくらハードスキルに強くても、コミュニケーション能力のない人は、PEで働かない方が賢明だとさえいえる。というのも、人から信頼を得られないような人間が、投資先企業の人に受け入れられ、投資を実行することは困難を極めるためだ。仮に、オークションなどを通じて投資ができたとしても、そのようなコミュニケーション能力が低い人がファンド側にいると、会社経営陣と信頼関係を築き上げ、組織内の課題解決を行っていくことが難しくなる。

ただでさえ、PEで働く人はその前職が投資銀行だったり戦略コンサルだったり商社だったり銀行だったりで、大学も日本であれば東大や慶応卒と、世間一般からすれば、「鼻持ちならない」感じがする人が多い。そのような人が、実際に高飛車な仕事スタイルをとったり、会社の人を馬鹿にしたりすれば、どのような事態になるのかは目に見えている。

海外の超一流投資ファンドの入社面接は非常に厳しく、面接では徹底的に知的素養をチェックされるが、その後のテストは、食事会なのだという。入社志望者とレストランで食事をしながら、料理を持ってきてくれる人や受付の人に対してどれくらい丁寧であるかというのが、評価項目として存在しているそうだ。

このように、コミュニケーション能力がスキルとして必要な仕事であるため、PEで働いている人々においては、鼻持ちならない人の数は周囲が想像しているより随分と少ない。むしろ、様々な業種業態の投資先企業の社員と腹を割って話せるようなチャーミングな人たちが集っているという印象が個人的にはある。

マネジメントに関する知識・経験

そして、最後に重要なのが、マネジメントに関する知識と経験だ。すなわち、投資先企業の経営陣と、経営の目線に立って議論を行い、必要な課題解決を行っていく能力ということもできる。場合によっては、投資先の経営陣および従業員を意欲づける、起業家精神といったものさえも必要となる。

この能力に関しては、PEファンドで働く若手の多くが苦労することになる。そもそも事業経営をしたことがない人々にとっては、会社を背負って事業を行ってきた経営者らと同じ目線で物事を考えるのは容易ではないためだ(念のため述べておくと、PEファンドが経営サポートを通じて行うのは、経営そのものでは決してない)。

経営に関する知識は経験知・身体知であって、本を読んだり、経営者の様子を見たりすることで身につくものではない。実際に、自らが組織の長となって、その組織の経営をしてみることを通じて、はじめて身につく能力である。ある人は、「だから、PEファンドにいる若手は、どこかのタイミングで一度社長を経験してみて、それからファンドに戻ってくるのが良いのではないか」と話していた。個人的には、一度ファンドを離れて、起業をした後にまた戻っていくというのもありうる選択肢なのではないかと考えている。

著者プロフィール 慎 泰俊(しん・てじゅん)

五常・アンド・カンパニー 代表取締役
モルガン・スタンレー・キャピタルおよびユニゾン・キャピタルを経て現職。2007年にNPO法人のLiving in Peaceを設立し、カンボジアやベトナムなどで日本初の「マイクロファイナンス貧困削減投資ファンド」を企画するとともに、国内児童養護施設の支援を実施。Global Shapers(世界経済フォーラム)などに選出。囲碁六段、本州縦断1,648kmマラソン完走。東京生まれ東京育ち。朝鮮大学校政治経済学部法律学科卒、早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。

◇主な著書
『15歳からのファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社) 2009年
『ソーシャルファイナンス革命』(技術評論社) 2012年
『外資系金融のExcel作成術』(東洋経済新報社) 2014年

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