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第1回 『プライベート・エクイティという言葉をはじめて聞く人のために』

そもそも、なぜ多くの日本企業にマネジメント・サポートが必要なのか

ここまで読んでみて、なぜ多くの日本企業にマネジメント・サポートがこれほどに必要なのか、これは日本に固有の問題なのか、疑問を抱く人がいるかもしれないので、日本企業に固有な歴史的な経緯について触れておこう。

日本企業は、相当な大企業であったとしても、多くのケースにおいて経営企画部や財務部といった、マネジメントや財務に関わる部門が弱い。一方で、研究開発や生産管理といった、「事業そのもの」に関わる部門はおしなべて強い。

このような状況になった背景には、日本独特の産業構造と経済状況があった。戦後の日本において、事業会社のほとんどはメインバンク制の下で成長を遂げた。そこでは、銀行は融資という形態でありながら、資本性の非常に高い資金を提供し、平常時には融資先企業の成長のために必要な経営サポートを行い、破綻危機等がある際には経営再建を主導する機能を果たしていた。メインバンク制のもとでは、企業のメインバンクはインサイダーであり、特別なディスクロージャー等も必要とされなかったため、投資家に対するレポーティングを強化するニーズも低かった。

この一連の仕組みは、急速な勢いで全ての産業を育てる必要があった時代背景の要請だった。諸企業が事業のみに専心し、銀行が一手に企業の経営企画・財務の仕事を担当することは、国家全体の成長を実現するためには効率的な分業だった。戦後における日本企業の急成長の背景の一つには、間違いなくこのメインバンク制が存在している。

メインバンク制の下で、ある意味において、当時の日本の銀行はPE的な役割を果たしていたと言っても過言ではない。PEファンドにいる人々のうち、例えば日本興業銀行や日本長期信用銀行出身者の一部の人は、今PEファンドで行っている自分の仕事は、まさに銀行時代に自分たちが行ってきたものであると述懐する。

また、バブル崩壊以前までは、日本経済は常に成長期にあった。成長期にある経済においては、資本投下を続け生産能力を保っていればそれだけで事業は成長していったため、特に差別化や事業の取捨選択等を行う必要もなかった。そのために、戦略的な意思決定をする必要に迫られることもなく、またそのような意思決定をサポートするための部門に対するニーズも低かった。現代においては、新興国における巨大企業に対して同様のことが当てはまる。

このメインバンク制が崩れ、経済成長も一段落し、日本企業が自社独力で経営企画・財務といった事業を行う必要が生じてきたのは、20世紀末になってのことだ。しかしながら、組織の性質というのは経路依存するものであり、今までのやり方を内部だけの力で変えるのは容易ではない。結果として、メインバンク制が無くなってから20年の期間が経った今も、多くの日本企業において財務・経営企画が国際比較的には弱いままとなっている。中堅企業においては特にその傾向が強い。

日本企業に対して経営サポートが特に必要とされているのはこういった歴史的な事情によるものである。しかも、こういった企業の体質を変化させるにおいては、単なる外部コンサルタントを採用するだけでは不十分な場合もある。外部者はあくまで外部者であり、企業自身がその意見を採用して自社を変革していく勢いとするのは容易でないためだ。そのために、3〜7年といった期間、議決権付株式の過半数を保有して経営サポートを続けるPEファンドに、一定のニーズがあるといえるのだろう。

特に経営サポートという観点からいえば、日本においてPEのサービスを必要としているのは、事業承継問題を抱えるオーナー企業、大企業からスピンアウトする事業部、海外展開等のニーズを有する中堅企業という分野になるのだと考えられる。

まだまだ発展途上にある日本のPE

このように、日本企業にとってPEのニーズは明確に存在しているが、なかなか日本のPE市場は成長していない。GDPに占めるPE案件の比率に関していえば、日本と米国との間には今も1対10以上の格差がある。「金融界において市民権はあるものの、まだ日本の企業社会全体に受け入れられているとはいえない」と話す人もいる。

しかしながら、筆者は、PE業界の今後については楽観的だ。それには大きく二つの理由がある。

第一に、日本企業の多くが抱えている課題は今も解決しておらず、問題はより深刻な形で先鋭化することが明らかであるためだ。組織が内部から変革を起こすのは、よほどの強いリーダーシップがある場合を除けば、変革しなければ死を免れないといった場合であるが、後者のような変革のニーズは一定程度存在するものと考えている。個人的な意見だが、このままの形で20年後も生き残っていると断言できる日本企業はそう多くないため、ターンアラウンド(建て直し)やリープフロッグ(更なる飛躍)を必要とする案件は今後も増えていくのだろう。

第二に、PEの側から成功案件が多く積み上がりつつあるためだ。特に2010年を過ぎたあたりから、多くのPEが、企業価値を高めた結果、投資も成功したと言える案件を多く出すようになってきた。

これら多くの成功案件の共通点は、PEが投資先企業の企業理念を尊重し、その企業らしさを残したまま、不足している点を補完することで成功しているということにある。すなわち、これら案件の多くは、ファンドの投資期間に無理をして業績を改善させるのではなく、持続可能な形で事業を成長させることに成功したものであり、こういった案件が作り出されていることは、より多くの日本企業がPEと一緒に仕事をしてみようと思うようなきっかけになるのではないだろうか。

著者プロフィール 慎 泰俊(しん・てじゅん)

五常・アンド・カンパニー 代表取締役
モルガン・スタンレー・キャピタルおよびユニゾン・キャピタルを経て現職。2007年にNPO法人のLiving in Peaceを設立し、カンボジアやベトナムなどで日本初の「マイクロファイナンス貧困削減投資ファンド」を企画するとともに、国内児童養護施設の支援を実施。Global Shapers(世界経済フォーラム)などに選出。囲碁六段、本州縦断1,648kmマラソン完走。東京生まれ東京育ち。朝鮮大学校政治経済学部法律学科卒、早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。

◇主な著書
『15歳からのファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社) 2009
『ソーシャルファイナンス革命』(技術評論社) 2012
『外資系金融のExcel作成術』(東洋経済新報社) 2014

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